メイドインチャイナ
数年前、中国製の保温保冷水筒を買ったことがある。
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量販店で水筒のパッケージがワゴンに山積みされていたので、一つ手に取ってみた。本体はステンレス製で安っぽさはなく、そこそこ良くできていた。隣の棚に日本メーカーの水筒が並べられていたが、同じような外観、造りで値段は5倍位した。安いランチ代にも満たない価格で買えるのだ。騙されたと思って一つ買ってみることにした。
夏場だったので、買ったばかりの水筒にアイスコーヒーを入れて使ってみた。飲み物が漏れることもなく、保冷性もまずまずだった。
お買い得だったなと思いながら暫く使っていた。やがて季節は初冬になり、温かいものを飲むようになった。今まで使っていた水筒に熱い紅茶を入れて最初に一口飲んだ時、変な臭いを感じた。嗅いだことのない臭いだ。臭いだけではなく味も変だった。変と言うよりも不快な苦みを感じた。すぐに水筒を調べてみた。水筒に付属しているゴム製のパッキンが臭いの発生源ようだ。熱い紅茶によってパッキン中の何らかの成分が溶け出した様だ。
水筒のパッケージに同封されていたスペアのパッキンを調べてみた。ポリ袋の中にスペアのパッキンとともに小さな説明文が同封されていた。そこには「シリコン製」と書かれていた。シリコーンゴムのことを「シリコン」と表現されることがあるが、シリコーンゴムなどの有機ケイ素化合物は「シリコーン」と呼ぶのが正しい。シリコーンゴムは大きく分けると、ゴムを硬化させる際に反応生成物を生じるタイプのものと反応生成物を生じないものがある。スペアパッキンの説明文にはそこまで記載されていなかったが、付加反応型のシリコーンゴムは硬化の際の反応生成物がなく硬化剤の残渣や分解物もないので、スチーマー等のシリコーン製調理用器具にはこのタイプのものが用いられる。
水筒を設計した会社あるいは水筒を製造した会社が、単純にシリコーンについて不勉強で、付加反応型以外のシリコーンゴムを用いたのか、あるいは後加熱の処理が不十分で反応生成物や硬化剤の残差の除去が不十分だったのかは分からない。私はパッキンの臭いを嗅いだ瞬間、これはシリコーンではないと思ったので、ひょっとするとシリコーンゴムよりももっと安い材質のゴムが使われていたのかもしれない。
結局この水筒はすぐに捨ててしまった。販売店に文句を言うことも考えたが、たかだか数百円だ。手間の方が惜しかった。
この水筒は、水筒単価から考えたら微々たる金額の部品の為に製品全体の価値を無くしてしまった。それだけではない。この水筒を購入した消費者の量販店に対する信頼、中国製品全体に対する信頼も落としてしまったことになる。
中国製品では、時々このように極端に品質のバランスが悪いものを見かける。程度の差はあるが、日本製品でもたまに品質バランスの悪いものを見かけることがある。ユーザーは最も悪い部分の品質でその製品全体の評価を決めてしまう場合が多い。
ちょっとした妥協や思い込み、小さな不正等が製品の価値を無くしてしまうばかりでなく、生産、販売会社のイメージまで悪くしてしまう可能性があることをこの小さな出来事は思い出させてくれる。