フッ素樹脂塗膜の計測と評価 -乾燥膜厚-

1.はじめに

 フッ素樹脂塗膜の評価方法は、JIS K6894:2014「金属素地上のふっ素樹脂塗膜の試験方法」で規定されています。この規格は金属素地上のフッ素樹脂塗膜の為のもので、フッ素樹脂の種類としては、PTFE、PFA、FEP、ETFEの4種類とされています。しかし、別解説「フッ素樹脂塗料の種類と選択方法」に記載したようにフッ素樹脂塗料の種類は多く、中には樹脂やゴム表面にも加工できる低温で硬化可能なフッ素樹脂塗料もあり、この規格ですべてのフッ素樹脂系塗料をカバーできるものではありません。塗料一般の試験方法は、JIS K5600に規定されており、フッ素樹脂塗膜を評価する場合には、JIS K6894:2014と併せて参考にすると良いと思います。

 ここでは、フッ素樹脂塗膜の評価について、フッ素樹脂塗料の種類を限定せず、その評価方法について解説していきたいと思います。

2.膜厚計測について

 コーティングにおいて、膜厚は重要な計測項目です。膜厚が基準の範囲から外れれば、光沢や色調の異常、液ダレ、膨れ等の外観や意匠面の問題が発生します。コーティングの目的が防錆、防蝕等の基材保護、あるいは電気絶縁性などの機能であれば、膜厚はこれら機能面に大きく影響します。また、寸法精度の厳しい製品では膜厚むらはそのまま製品の寸法精度を低下させることになります。摺動部材のような摩耗が伴う製品へのコーティングの場合には、膜厚が耐久性に影響を与えます。また、外観、機能に影響を与えなくとも、不要に厚く塗装することは、材料コストに影響を与えます。

3.主な膜厚計測方法

 樹脂塗膜、フィルムの膜厚計測方法については、様々な方式があります。表1に主な膜厚の計測方法についてまとめました。

 
 破壊方法として、塗膜の断面を直接計測する方法と、くさび型切削法があります。塗膜断面より膜厚を直接計測する方法は、手間がかかる上破壊検査になるので、製品検査などでは余り行われませんが、基材の凹凸の状態と塗膜の関係を知るには良い方法です。切断の仕方によっては、切断面が垂れて正確な膜厚計測ができない場合があるので注意が必要です。断面の状態を正確に見るには、樹脂に包埋して切断、研磨する必要があります。

 非破壊の計測方法は様々な原理を用いた測定器がありますが、金属基材上のフッ素樹脂塗膜の厚さ計測には、主に渦電流式膜厚計と電磁誘導式膜厚計が用いられています。渦電流式膜厚計と電磁誘導式膜厚計については、別項目で少し詳しく説明します。その他、超音波を用いる方法、光学的に計測する方法、静電容量を利用する方法、放射線を利用する方法など様々な膜厚計があります。

4.渦電流式膜厚計の測定原理と使用上の注意点

 渦電流式膜厚計は、アルミニウム等の非磁性金属上の塗膜厚を計測する装置です。プローブに内蔵されたコイルに高周波電流を流して金属面に近づけると、コイルで発生した磁界が金属面を貫通して、渦電流を生じます。この渦電流は、コイルと金属面との距離に比例して高周波コイルで発生した磁界を打ち消す方向に流れるので、コイルを流れる電流の変化から膜厚を知ることができます。(図1)

 渦電流式膜厚計を使用するにあたっての注意点を以下に記述します。

・ゼロ調整及び標準調整をする際に用いる基準板(金属板)は、被測定物の基材と同一の材質、厚さ、形状(曲率)であることが重要です。膜厚計の測定値は、基材(厳密には塗膜も)の電気抵抗、透磁率に影響を受けるので、同一金属組成の基材を用いる必要があります。

・ゼロ調整する基準板(金属板)の表面は、平滑であることが好ましく、標準板が平滑でないとゼロ調整が安定しません。塗膜が粗面上に形成されている場合、ゼロ調整用の基準板が平滑であると、実膜厚とのずれが生じる可能性がありますが、粗面上の塗膜の厚さを基材の凹凸のどの位置から見たものかを定義し、測定条件を明確にすれば多くの場合、問題は生じないはずです。

・オーステナイト系のステンレス(SUS304など)は、加工などで変形させると組織の一部がマルテンサイト化して透磁率が変化します。このような場合は、測定値に影響を与えるので、これらステンレス上の膜厚測定には注意が必要です。

・プローブ及びフッ素樹脂の材質によっては、標準板とフッ素樹脂塗膜の硬さの違いが、測定値に誤差を与える場合あります。正確に膜厚を知りたい場合には、断面計測等直接的に得られた膜厚の値と対照させると良いでしょう。

・被測定物の温度によって測定値が変動します。被測定物は周囲の温度に戻してからゼロ調整、校正を行った上で測定する必要があります。

5.電磁誘導式膜厚計の測定原理と使用上の注意点

 電磁誘導式膜厚計は、鉄等の磁性金属上の塗膜厚を計測する装置です。プローブに内蔵されたコイルに低周波電流を流して磁性金属に近づけると、コア(鉄)と磁性金属との間の距離によって磁束の強さが変動してコイルを流れる電流が変化するので、この電流値を換算することで膜厚の値を得ることができます。

 電磁誘導式膜厚計は、コンパクトな上操作が簡便で、磁性金属上の塗膜の厚さ測定に広く用いられています。

 電磁誘導式膜厚計を用いる上で、標準板の取扱いやプローブの当て方などに注意することは勿論ですが、以下の点について注意する必要があります。

・ゼロ調整をする基準板は、被測定物の基材と同一の材質、厚さ、形状、曲率であることが必要です。

・ゼロ調整する基準板(金属板)の表面が平滑であるこが好ましく、標準板が平滑でないとゼロ調整が安定しません。塗膜が粗面上に形成されている場合は、渦電流式膜厚計と同様、実膜厚とのずれが生じる可能性がありますが、基材の凹凸のどの位置から見た時の膜厚かを定義し、測定条件を明確にすれば多くの場合問題は生じないはずです。

・プローブによっては、測定する塗膜の硬さによって測定値に影響を受ける場合があります。

6.非金属上の塗膜厚の計測

 樹脂等の金属以外の基材上に被覆された塗膜の厚さについては、渦電流式膜厚計、電磁式膜厚計では計測できません。非金属上の塗膜の厚みを計測する場合には、破壊検査によって膜厚を計測するか、他の原理を用いた膜厚計で計測する必要があります。次に、絶縁体上の膜厚を計測する簡便な方法として、超音波膜厚計について説明致します。

 超音波膜厚計は、超音波の反射を利用して膜厚計測を行います。プローブから超音波を出し、塗膜と基材の界面で反射してプローブに戻ってくるまでの時間を計測することで、音速との関係から膜厚を算出します。(図3) 

 超音波式膜厚計は、塗膜や基材の材質に関する制約が少なく、多層皮膜の計測もできる等の利点があり、広い分野で使われています。超音波の伝搬速度は物質の種類によって変化するので、材質毎に音速の補正が必要になります。

7.まとめ

 設計や開発においては、塗膜の誘電率や体積固有抵抗率の算出などで、真の膜厚を知る必要がある場合があります。そのような場合には、断面から膜厚を直接計測し、膜厚計の値と対照した上で膜厚計を用いていくのが良いでしょう。

 塗膜厚の計測は、単純なように見えて複雑な部分があります。その理由の一つとして、塗膜の表面粗さ、基材の粗さをどう見るかということがあります。通常、基材は接着力の向上のため、ブラスト処理等の粗面化処理をする場合が多いのですが、粗面化して得られた凹凸のどの位置から膜厚とするか定められていない場合が多いように感じます。基材の凹凸と膜厚の関係を定義し、測定条件等を定めれば、多くの場合は真の膜厚と数値がずれていても問題を生ずることは少ないと思います。

参考文献
結城英恭 渦電流式膜厚測定 表面技術 Vol.40,No.2,1989
小林整 磁力式膜厚測定  表面技術Vol.40,No.2,1989
オリンパス光学工業 webページ