防汚コーティングの種類と特徴

1.はじめに

防汚コーティングという言葉になじみのない人もいると思いますが、身近な例ではフッ素樹脂加工したフライパンのように汚れが付着しにくく、汚れの落ち易いコーティングを総称して防汚コーティングと呼びます。非粘着コーティングという言葉もありますが、防汚コーティングの方が広い意味を含んでいるようです。防汚コーティングは、水で付着した汚れを洗い流すもの、酸化作用により汚れを分解するもの、コーティング膜が溶解して汚れ付着を防止するものなど様々な防汚メカニズムを利用して汚れ付着を防いでいます。一方、非粘着コーティングは単純に汚れとの付着力を小さくすることで汚れを防止するものです。防汚コーティングは、建物外壁、屋根、窓ガラス、船舶、屋内の水回り関係、厨房機器、輸送機器、精密機器、ソーラーパネルなど様々な分野で利用されています。ここでは、防汚コーティングの用途と防汚コーティング剤の種類、防汚のしくみ、代表的な防汚コーティング剤について解説致します。

2.防汚コーティングの利用分野と種類

 汚れには空気中の埃や粉塵、皮脂や食物、排気ガス等油性のもの、カビや苔等の生物由来のものなど各種のものがあり、汚れの種類や使用環境に応じて様々な防汚コーティングが用いられています。

表1に防汚コーティングが利用されている主な用途についてまとめました。

船底塗料のような特殊な用途を除くと、防汚コーティングは親水性コーティングと撥水性コーティングに大別されます。親水性コーティングは、雨水等によって汚れを洗い流すことにより汚れ付着を防止するもので、建築外壁等の屋外やキッチン、トイレ等水回りのコーティングに利用されています。撥水性コーティングは、水性の汚れの付着を防止するとともに、汚れの付着力そのものを低減する効果があり、自動車ボディや厨房機器等に用いられています。

3.親水性コーティングによる防汚性と親水性コーティング剤

親水性コーティングは、表面が水に濡れやすい状態を作るもので、雨水等によって汚れを洗い流すセルフクリーニング作用により汚れの付着を防止します。親水性、撥水性を表す指標として、水と表面が作る接触角があります。(図1)

一般に接触角90°を境にして、接触角が小さくなる側を親水性、接触角が大きくなる側を撥水性と呼びます。特に接触角10°以下を超親水性、150°以上を超撥水性と呼ぶことがありますが、明確な定義はないようです。

表2に主な親水性コーティング剤を示しました。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は 表2主な親水性コーティング剤.png です

代表的な親水性コーティングとして光触媒系のコーティングがあります。光触媒コーティング膜の表面に紫外線が照射されると、その表面は非常に水に濡れやすい状態を作ります。光触媒の効果の一つがこの超親水性効果で、表面は水の吸着層を持ち、汚れが付着しても雨水等が汚れを浮かし、容易に水で洗い流される仕組みになっています。光触媒のもう一つの効果として光酸化反応があります。これは、光触媒に紫外線が当たると周囲の物質を酸化させる現象です。この作用により油性の汚れ、苔、カビ等も酸化、分解されると言われています。尚、光触媒による酸化効果は、防汚コーティング剤のバインダー(結着剤)樹脂自身も分解させてしまうため、バインダーにはシリカ皮膜を形成するアルコキシシラン系の化合物あるいは化学的に安定なフッ素樹脂系のものが使われています。

また光触媒を用いない親水性コーティングとしては、アルコキシシラン系の化合物あるいはポリシラザン系の化合物が用いられます。どちらもケイ素化合物で、空気中の湿気(水)と反応してシリカに転化し、ガラス質の皮膜を形成します。(図2)これら皮膜の表面は、水酸基に覆われるため親水性になりますが、平滑面で超親水性を得るのは困難で、超親水性に近づけるために表面状態を制御する工夫がなされている場合が多いようです。

親水性によるセルフクリーニング効果と撥油性による油性汚れの付着力低減の両立を目的として親水撥油性コーティングもいくつか提案されています。親水性と撥油性はどちらも水および油と固体表面の表面自由エネルギーの関係によって決まるものなので、一般に親水性が高い表面は親油性が高く、親水性と撥油性は両立しにくい性質があります。 親水撥油性コーティングの一つとして、分子中に表面自由エネルギーが低いパーフルオロ基と、親水性基の両方を持たせた構造にし、親水性と撥油性を両立させているものがあります。

4.撥水性コーティングによる防汚効果と撥水コーティング剤

撥水性コーティングは、水に濡れにくく水をはじく性質のあるコーティングを指します。屋外や水が存在する環境では、撥水性表面を水滴が流れ落ちていく際に汚れも一緒に流れていくことで、汚れを付着しにくくする効果があると言われています。但し、撥水性は水性の汚れのみに有効で油性の汚れに対してはその効果が低くなります。

主な撥水性コーティング剤を表3に示しました。

代表的な撥水コーティングとして、フッ素樹脂系のコーティングが挙げられます。フッ素樹脂は表面自由エネルギーが低く、撥水性だけではなく、撥油性もあります。フッ素樹脂は、分子間に働く引力が非常に小さく、フッ素樹脂表面と汚れ物質との間に働く引力も小さくなります。このため汚れを付着しにくく、付着しても簡単に落としやすい性質を持っています。代表的なフッ素樹脂として、4フッ化系樹脂であるPTFE(Polytetrafluoroethylene)があります。一般にフッ素樹脂は、加工温度が高く、樹脂等耐熱性の乏しい材料へのコーティングは難しくなります。屋外での施行が必要な場合や耐熱性の乏しい材料への加工を必要とする用途には、常温で硬化する反応型のフッ素樹脂塗料が用いられています。

フッ素樹脂と並んで撥水コーティングに用いられる材料として、シリコーン(Silicone)系の材料があります。シリコーンは、有機ケイ素化合物のことで、シリコーンゴムやシリコーン樹脂として様々な分野で利用されています。通常の有機化合物の主鎖が-C-C-であるのに対し、シリコーンは主鎖が無機のシロキサン結合-Si-O-Si-で側鎖に有機基を持つ特殊な構造をしています。ちなみにシリコーンのことをシリコン(Silicon)と呼ばれることがありますが、シリコンはケイ素のことでゴムや樹脂等の有機化合物を指す場合にはシリコーンが正しい表現になります。シリコーンは分子骨格が無機の-Si-O-Si-を持つため、優れた耐熱性、耐候性を発揮します。また、側鎖の有機基にメチル基を持つ場合には、メチル基が表面に出て表面自由エネルギーが低くなり、優れた撥水性を示します。(図3)

尚、表3でシリコーン系コーティング材料としてシリコーンレジンとシリコーンオリゴマーを併記していますが、シリコーンオリゴマーは比較的低分子量のシリコーンレジンのことを指します。

フッ素樹脂やシリコーンは低い表面自由エネルギーを持ちますが、これら表面に対する水の接触角は超撥水と呼ばれる状態からはかけ離れています。特に表面自由エネルギーが低い4フッ化系のフッ素樹脂でも平滑面における水の接触角は110°~115°程度です。したがって、表3に示したコーティング剤いずれついても材料特性だけで超撥水性を達成するのは困難です。撥水性を少しでも向上させるために表面形状を制御する様々な工夫が成されていますが、撥水効果の持続という点では大きな課題が残されています。また、先にも述べましたが、撥水性は水性汚れに対してのみ有効で、油性汚れに対しては材料の表面自由エネルギーを小さくして汚れに対する結合力を小さくすることが重要です。

ハイブリッドタイプとして、フッ素変性シラン系のコーティング剤があります。この化合物は分子中にパーフルオロポリエーテル基とアルコキシシリル基を持っています。パーフルオロポリエーテル基は表面自由エネルギーが低く、高い撥水・撥油性を発揮します。また、アルコキシシリル基は空気中の水分で加水分解し、被塗物表面の水酸基と縮合して接着します。金属やガラスのように表面に水酸基を持つ材料は、このタイプのコーティング剤に適しており、タッチパネルやガラス等の指紋付着防止用途で用いられています。

5.まとめ

今回の解説では、光触媒系、フッ素系、シリコーン系、ガラス系のコーティング剤を中心に説明しましたが、市場に出回っているコーティング剤はこれらのものをブレンドしたり、複層化したり、粗さ制御材や帯電防止剤を添加したりと様々なものがあります。しかし、どの防汚コーティングも防汚性の持続という点で課題を抱えており、性能向上を目指してこれからも開発が進められていくと考えられます。

6.参考文献

1)信越化学工業編:シリコーン大全 日刊工業新聞社
2)中島章:撥水性固体表面の科学と技術 表面技術 Vol.60, No.1(2009)
3)井本克彦:親水性コーティング 日本接着学会誌Vol.46, No.5(2010)
4)唯岡英介、岩井満:ガラスコーティング技術による表面機能化 NEW GLASS Vol.24 No.3(2009)
5)吉本哲夫:光触媒の固定化法 表面技術 Vol. 50, No.3(1999)