定着技術と表層材料

1.はじめに

電子写真技術は、複写機やレーザープリンター等の印刷に用いられている技術です。電子写真技術は様々な技術の組合せで成立していますが、電子写真技術と表面技術は密接な関係にあります。複写機やレーザープリンターは粉体状のインクであるトナーを用いて印刷しますが、トナーと機能部品との間には様々な力が働きます。その中でも特に定着部品は、トナーが硬い粉体状態から軟化してゴム状態に変化する間に接触するため、定着部材表面とトナーの関わりは複雑になります。

 ここでは電子写真装置における定着部材表面とトナーの関わりについて説明します。

2.定着プロセス

 用紙上に主に静電気的な力で付着したトナーを用紙に接着固定させる工程を定着プロセスと呼びます。(図2)

 トナーが定着部を通過する際のトナーの変化を図3に、トナーの粘弾性曲線を図4に示しました。トナーが定着部に入る前は、トナー樹脂はガラス転移点以下にあり硬い状態を保っています。定着部に用紙(トナー)が入ると、トナーは定着ローラから熱量を受けて温度が上がり、ガラス転移点付近から軟化が始まり急激に粘度低下してゴム状領域に入ります。トナーはゴム状領域で加圧されることによって用紙繊維の間に侵入します。用紙が定着部から離れると、用紙上のトナー温度が下がり、トナーは繊維間に侵入したまま冷却、固定します。この時、トナーは用紙繊維中に入り込んでいるため用紙との間で機械的な結合力(アンカー効果)が働き、更にトナー樹脂と用紙繊維との間の接触面積が増加して分子間力により接着します。

3.トナー温度と画像欠陥

 トナーはゴム状領域で定着されますが、トナーがゴム状領域から外れた温度で定着が行われると、オフセットと言われる画像欠陥が現れます。(図5)

 オフセットは、トナーが定着部を通過する際に、トナーの一部がローラ表面に付着し、一周回って再度用紙に付着することによって発生します。

 温度が低い時に発生するオフセットを低温オフセット、温度が高い時に発生するオフセットを高温オフセットと呼びます。低温オフセットは、トナーが転移領域にある時に発生します。転移領域にあるトナーは、充分軟化しておらず、用紙繊維中への侵入が不十分なので、用紙との間の機械的な結合力が弱く、トナー樹脂と繊維の接触も不十分なため分子間力も強く働きません。一方、トナーが定着ローラ表面と接する部分はトナーが直接熱を受けるので軟化、密着して定着ローラ表面とトナー粒子に働く分子間力が大きくなります。結果的に定着ローラ表面との付着力が、用紙との付着力よりも大きくなったトナーが定着ローラ側に持っていかれ、再度用紙に接触した時に用紙側に付着することで低温オフセットは発生します。

 また、定着ローラに被覆されているフッ素樹脂は、用紙と摩擦して負側に帯電するので、フッ素樹脂表面と負帯電トナーとの間に働く静電気力は斥力になります。正帯電トナーを用いる場合には、フッ素樹脂表面が負帯電なので両者に働く力は引力になり、更に低温オフセットが発生しやすい状態になります。

 高温オフセットは、トナーが流出領域まで軟化した場合に発生します。この状態では、トナーの用紙繊維への侵入は充分ですが、トナー自身の凝集力(分子間力)が低下し、定着ローラ側と用紙側にトナー自身が分裂して付着するようになります。

 図8に高温オフセットが起こる際の状態を模式図に示しました。

4.定着ローラの表層材料

 定着ローラの表層材料には、フッ素樹脂が用いられます。フッ素樹脂の種類としては、PTFE樹脂またはPFA樹脂が使われます。これらの樹脂が利用される理由の一つとして耐熱性が挙げられます。PTFE樹脂、PFA樹脂は他のフッ素樹脂に比べ高融点で、定着温度付近における機械的強度の低下が少なく、耐傷性の点で有利です。

 もう一つの理由は、軟化したトナーに対する付着力を下げるため、より表面自由エネルギーが低い表面材料が求められるためです。フッ素樹脂の中でもPTFE樹脂、PFA樹脂は表面自由エネルギーが低く、オフセットの発生に対して有利になります。これらフッ素樹脂は、分子間力が低いため機械的強度に劣り、充填剤等によって耐傷性を補強する場合があります。

5.まとめ

 ここでは、定着技術の基本的な部分について説明しました。説明を分かり易くするため、かなり省いている部分もありますがご容赦下さい。また、今回は、モノクロ定着について説明しましたが、カラー定着も基本的な定着原理は一緒です。しかし、カラー定着では写真やイラスト等の画像が多くなることや、4色のトナーを用いることで、定着技術としては難しいものになります。

参考文献

1)竹内昭彦:第63回日本画像学会技術講習会資料