汚れの付着とレーザープリンター 

1.はじめに

 汚れは私たちの身の回りの身の回りにあるものすべてに付着します。汚れが付着すると製品の美観を損なうばかりではなく、製品の機能や働きを低下させてしまう場合もあります。 

 レーザープリンターや複写機は、粉状のインクであるトナーを用いて印刷を行う装置です。トナーが印字部だけに載ればよいのですが、印字部以外に付着して印刷物を汚してしまうことがあります。

 ここでは汚れの付着メカニズムをレーザープリンターの印刷技術から解説したいと思います。

2.汚れの付着メカニズム

 汚れが表面に付着する際には表面と汚れ物質との間で、機械的な付着力、静電気的な力、分子間相互作用に基づく力(ファンデルワールス力、水素結合、共有結合など)が働きます。例えば衣類など繊維製品の汚れの付着は繊維の隙間に汚れが嵌り込んで付着する機械的な付着力の影響が大きいと考えられます。スマートフォンのタッチパネルの指紋はファンデルワールス力によって油脂などが表面に付着していると考えられます。テレビなど電気製品の裏側の壁が黒く汚れることがありますが、これは埃や塵が静電気的な力で壁に引き寄せられて付着し、電荷が消失してからもファンデルワールス力で付着し続けると考えられます。

3.レーザープリンターの印刷のしくみ

 レーザープリンターは静電気的な力、機械的な付着力、分子間に働く力を利用して印刷を行う装置です。レーザープリンターの印刷のしくみについては、別記事の「電子写真技術と機能部品」をお読み下さい。

4.定着部材の役割と定着ローラー

 レーザープリンターにおいて、定着部はトナーを用紙上に強固に接着させる役割があります。定着部を通る前は、トナーは主に静電気的な力により用紙上に付着しています。用紙が定着部を通る際に用紙上のトナーは熱によって軟化し、圧力をかけられて用紙繊維中に侵入します。用紙が定着部から離れると、トナー温度が低下して硬くなり、用紙繊維中に侵入したトナーにより用紙との間で機械的な付着力が働いて用紙に固定されます。(図3)

5.オスセット現象による用紙の汚れ

 定着部を構成する定着ローラーは、一般にアルミ二ウム製の芯体にフッ素樹脂を被覆したものが用いられます。熱によって軟化したトナーは非常に粘着性が高く、定着ローラー表面に付着しやすい状態になります。トナーが定着ローラー表面に付着すると、一周回って付着したトナーが用紙に再付着してオフセットと言われる現象が発生し、必要のないところにトナーが付着して用紙を汚してしまいます。

 オフセット現象を考える上でトナーの温度は非常に重要です。図4に示すようにトナーの粘弾性がゴム状領域と言われる温度領域で用紙に定着させる必要があります。

 トナー温度が低いとトナーの軟化は不十分で用紙繊維中に侵入できなくなり、トナーと用紙の間で充分な接着力が得られません。このような状態では、定着ローラー表面とトナーの間の付着力が、トナーと用紙の間の付着力あるいはトナー粒子どうしの凝集力よりも大きくなり、低温オフセットと言われる現象が発生します。低温オフセットが発生する時の力の関係を表すと図5のようになります。

 トナー温度が高いと、トナーは充分に軟化するので、用紙繊維中へのトナーの侵入は充分です。しかし、トナー温度が高過ぎると、トナー自身の粘性が低下し凝集力が小さくなります。粘性低下したトナーは定着ロールに対する付着力と用紙への付着力によって凝集破壊し定着ロール、用紙にそれぞれに分かれて付着する現象が発生します。この現象のことを高温オフセットと言います。

 このようにレーザープリンターで綺麗な印刷が得られるかどうかは、トナー/定着ローラーとトナー/用紙の付着力及びトナー自身の凝集力のバランスが重要だということになります。

6.定着ローラーのトナー汚れ付着対策

 オフセット現象を防ぐには、前述した通り適切な温度範囲で定着させることが重要で、定着ローラー表面の温度制御をトナーの粘弾性曲線におけるゴム状領域で定着させる必要があります。オフセット現象を防ぐための定着ローラー側の対策としては、定着ローラー表面の自由エネルギーを小さくすることが上げられます。定着ローラー表面材料に表面自由エネルギーの低いフッ素樹脂を用いることで、定着ローラーとトナーの付着力が小さくなり、特にトナー粘度が低下する高温域でのオフセットに対して有利に働きます。

 定着ローラー表面にはフッ素樹脂コーティングが施されているため、用紙との摩擦帯電によりその表面は負極性に帯電します。したがって、正帯電トナーに対しては、静電気的な作用による付着力が働くため、フッ素樹脂に導電性を持たして電荷を逃がして定着ローラー表面とトナーとの間の静電気力を小さくすることが行われます。

7.まとめ

 レーザープリンターに於いて、トナー/用紙表面との付着力とトナー/定着ローラー表面との付着力を制御して綺麗な印刷物を得ていることが理解いただけたでしょうか。レーザープリンターにおける用紙のトナー汚れも、私たちが普段使用している製品の表面に付着する汚れも基本的には、同じような力が働いていることになります。