フッ素樹脂塗料の種類と選択方法

1.はじめに

 フッ素樹脂塗料は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、非粘着性、低摩擦等フッ素樹脂の持つ優れた性質を活かして機械部品や調理器具、建物の外壁等様々な分野で利用されています。フッ素樹脂塗料と一口に言っても非常に種類が多く、目的や加工性を考慮せずに塗料を選択、加工すると効果が得られないばかりか、逆に被塗物を損傷させてしまう場合もあります。ここでは、製品化されている主なフッ素樹脂塗料の種類と、産業用途に向けてフッ素樹脂塗料を選択するにあたってのポイントについて解説致します。

2.フッ素樹脂とは

 フッ素樹脂はフッ素を含む樹脂の総称で、フッ化オレフィンを重合して得られる樹脂です。代表的なフッ素樹脂としてPTFE(Polytetrafluoroethylene)がありますが、PTFEはフッ化オレフィンの一つである4フッ化エチレンを重合させて得られます。オレフィンの水素原子に置換されるフッ素原子の数が増える程、耐熱性、耐薬品性、非粘着性等の性質がより発揮されるようになります。また、フッ化オレフィンと他のモノマーを共重合させて溶剤への溶解性を高めたフッ素樹脂や官能基を持たせたフッ素樹脂も製品化されています。

3.フッ素樹脂塗料の種類

 フッ素樹脂塗料の分類方法として様々な方法がありますが、ここでは主なフッ素樹脂塗料について塗料の形態と成膜形態で分類しました。(表1) 塗料形態は塗装方法や環境面との関連性が大きく、成膜形態は加工条件や膜物性との関連性が大きくなります。

 次に成膜形態について少しく詳しく説明します。成膜形態は、➀溶融型、②変性型 ③反応型 ④乾燥型に大別されます。

 溶融型は、フッ素樹脂が溶融、冷却固化して連続膜になるもので、加工温度は使用するフッ素樹脂の融点以上が必要になります。一般にフッ素樹脂は自己接着性がないため、溶融型のフッ素樹脂塗料は下塗り層であるプライマーを必要とします。溶融型のフッ素樹脂塗料の中でも特にPTFE樹脂、PFA(Perfluoro alkoxy alkane)樹脂、FEP(Perfluoro ethylene propylene copolymer)樹脂を用いた塗料は、耐熱性、非粘着性、耐薬品性等、フッ素樹脂が持つ性能を最大限に発揮します。

 変性型は、PAI(Polyamide-imide)やPES(Polyether sulfone)等の耐熱性樹脂の溶液にフッ素樹脂を分散させた塗料で、フッ素樹脂の弱点である耐傷性や機械的強度を耐熱性樹脂が補っています。耐熱性樹脂が接着性を持つので、プライマーは不要となります。耐熱性に関しては、耐熱性樹脂の種類にもよりますが、溶融タイプの塗料より劣る場合が多くなります。

反応型はフッ素樹脂分子に官能基を持ち、硬化剤としてイソシアネートやメラミンを用いるもので、比較的低温で硬化することができます。反応型の塗料は、被塗物の材質によってはプライマーが不要となります。また、硬化剤の選択や改質剤の導入により様々な特性を持つ塗膜を作ることが可能ですが、耐熱性に関しては上記、溶融タイプ、変性タイプよりも劣ります。

 乾燥型は塗料中の水または溶剤が揮発することにより、塗膜が形成されるもので、低温で皮膜を形成することが可能です。

 図1に代表的なフッ素樹脂塗料の成膜プロセスを示しました。

4.フッ素樹脂塗料の選択

 フッ素樹脂塗装を施す場合、フッ素樹脂塗装を専門とする業者に依頼する場合が多いと思います。しかし、フッ素樹脂塗装を行う品物が開発中のものである場合や生産設備の一部である場合、依頼者側は機密保持の観点からその目的や機能を充分に塗装業者に伝えられない場合があると思います。また、仮に塗装業者に塗装する品物の機能や塗装の目的を充分に伝えたつもりでも依頼者側の意図が充分伝わらないことも考えられます。フッ素樹脂塗装を塗装業者に外注する場合あるいは社内で塗装を実施する場合のどちらにおいても以下の観点でフッ素樹脂塗料を選択することをお薦めします。

4.1 費用

 単純に初期の塗装費用だけではなく、塗装した製品の耐久性、メンテナンスコスト、廃棄コストまで含めたライフサイクルコストを考慮する必要があります。

4.2 塗料の供給

 スポット的にフッ素樹脂コーティングを施すのであれば別ですが、量産品や継続的にフッ素樹脂塗装を施す必要がある場合は、安定的に供給される塗料を選択する必要があります。

4.3 機能、性能

 フッ素樹脂コーティングする品物の機能と使用条件、使用環境を考慮してフッ素樹脂塗料を選択する必要があります。例えば、常時200℃程度の温度下で摺動される部品であれば、摩擦係数と耐摩耗性、耐熱性が塗料選択のポイントになるはずです。この時、耐熱性の点から選択肢としては溶融型か変性型の塗料ということになり、特に耐熱性を重視するのであればPTFE樹脂系の塗料を選択することが望ましいということになります。

4.4 外観、意匠性

 工業部品の場合、機能は重要ですが、塗装面の光沢や色調といった外観も無視できない場合があります。また、光沢や表面粗さ等の表面形状は外観だけではなく、摩擦や撥水、撥油性等の表面特性に影響を与えるので注意が必要です。

4.5 被塗物への影響

 被塗物への影響については非常に重要で、特にフッ素樹脂塗料が高温焼き付けを必要とする場合が多いことから被塗物の耐熱性を考慮する必要があります。被塗物の材質が汎用樹脂の場合、溶融型や変性型のフッ素樹脂塗料は焼成温度が高いのでこれらの塗料を用いることは難しく、反応型あるいは乾燥型の塗料を選択する必要があります。また、被塗物が金属製であっても、PTFE樹脂、PFA樹脂系の塗料は特に焼成温度が高いので熱による変形や機械的特性の変化に注意する必要があります。2種類以上の金属の接合部品であれば、熱膨張率の差による変形にも注意しなければなりません。また、被塗物が樹脂製品の場合には、塗料中の溶剤によって被塗物が溶解したりクラックが入る場合があります。被塗物の材質と塗料中の含有溶剤の種類に注意する必要があります。

4.6 加工性、施工性

 塗装方法としては、粉体塗料であれば静電塗装が、液体塗料であればエアスプレー塗装が一般的です。静電塗装を行うには被塗物にアースを取る必要があり、被塗物は通常金属製であることを前提とします。通常のスプレー塗装の場合、被塗物のアースは不要ですが、塗装の際に被塗物を保持する部分が必要になります。

4.7作業安全性

 塗装作業を実施する際の問題になりますが、有機溶剤系の塗料を用いる場合には火気や静電気の発生、作業者の塗料吸引や皮膚への接触、異臭等に注意すると同時に、周辺環境に与える影響などを考慮する必要があります。

4.8 環境に与える影響

 粉体塗料や水系塗料は揮発性有機化合物VOC(Volatile Organic Compounds)削減には有効です。但し、水性塗料でも有機揮発成分を含む場合が多く、VOC非含有という訳ではありません。また、プライマーを用いる場合にはプライマーのVOCも考慮する必要があります。

4.9 被塗物に関する知的財産の侵害

 塗料としては知的財産上問題がなくともフッ素樹脂塗料を塗装した製品が他社の知的財産を侵害する場合があります。塗料メーカーや塗装会社がコーティング後の製品の知的財産まで保証してくれることはまずあり得ません。塗装製品が他社の知的財産を侵害する可能性がないかどうか自社で調査する必要があります。

5.まとめ

 以上、フッ素樹脂塗料の種類とフッ素樹脂塗料を選択する観点について説明致しました。実際には何度か繰り返してフッ素樹脂塗料を決めていくことになると思いますが、根拠のない試行錯誤はお金と時間の無駄です。信頼できる業者を選ぶことと自分たち自身でもある程度の知識を身に付けた上で業者と相談するのが近道です。

参考文献

1)環境対応形フッ素樹脂塗料 ‐粉体形・水性形‐ 旭硝子研究報告 65(2015)