簡易デジタル顕微鏡の工夫による工業製品の観察1—表面観察ー

1.はじめに

 デジタル顕微鏡は、拡大画像を電子データとして簡単に取り込める、金属顕微鏡に比べ作動距離が長く扱いやすい、焦点深度が深い、操作性が簡便である、携帯性に優れるなどの特徴があり、さまざまな分野で使用されています。非常に高機能のデジタル顕微鏡から携帯に優れる安価な簡易デジタル顕微鏡までさまざまなものがあります。簡易デジタル顕微鏡の場合、高倍率で観察するには無理がありますが、比較的低倍率でも試料によっては観察が行いにくい場合があります。特に凹凸が少なくコントラストを得られにくい試料などは表面状態の観察がうまく行えません。今回は、安価なデジタル顕微鏡を用いて表面状態の観察を簡単に行う方法についてお話したいと思います。

2.使用デジタル顕微鏡

 今回用いたデジタル顕微鏡は、消費税を含めて価格1万円以下で購入できる基本的な機能しか付いていないものです。主な仕様としては、次の通りになります。

 倍率20~50倍、200倍
 解像度640×480
 フレームレート30fps
 インターフェイス USB
 照明 LED 4灯(消灯機能なし)

 4つのLEDはレンズを囲む形で取付けられています。リング照明ではありませんが、無影照明に近い形になります。

3.ノーマル状態での実力把握

 まず、顕微鏡本体や観察方法には何の工夫もせずそのまま観察しました。比較のため、金属顕微鏡で観察した画像を並べました。金属顕微鏡と同じ倍率での画像を得るのは難しかったので、拡大倍率を合わせるためUSB顕微鏡の画像は若干トリミングしています。したがって、デジタル顕微鏡にとってはやや不利な画像になっています。ちなみに写真中のスケールは後から加えたものです。

 観察対象としてボタン電池背面の数字の部分を拡大観察しました。

 デジタル顕微鏡の画像としては、金属顕微鏡の暗視野観察と似たような画像が得られました。暗視野観察というのは、光を斜めから照射し、散乱光や回折光を観察する方法で、小さな傷の観察に適しています。細かな傷や細部の表現は、金属顕微鏡の方が優れていますが、安価なデジタル顕微鏡でもまずまず見えるという印象です。

 次に、印刷物として名刺中央の青いラインの顕微鏡観察を行いました。

  金属顕微鏡の方がインク粒子の識別が明確ですが、拡大倍率が低いためかそれほど大きな差は見られませんでした。

  次にスマートフォン裏側の平滑なロゴと周囲の境界部分の拡大写真を比較しました。

 デジタル顕微鏡では、ロゴの部分が非常に平滑で光を散乱しないため真っ黒になり、凹凸の状態は全く分かりません。一方、金属顕微鏡も通常の暗視野観察ではロゴの部分の凹凸の状態が全く分からないため、微分干渉観察を行いました(図10)微分干渉観察ではロゴの平滑部分の細かな凹凸がよく分かり、微分干渉観察の威力が発揮されています。

 次にフッ素樹脂コーティング膜表面のピンポールの観察を行いました。

 図11は塗膜のピンホールをデジタル顕微鏡のノーマル状態で観察した結果です。塗膜表面に穴が開いているのが分かりますが、全体にのっぺりした画像で表面の凹凸は全く分かりません。また、ピンホールの周囲に4つのLED光の反射が映り込んでいるおり、画像全体に濃度むらがある等さまざまな欠点が見られます。

4.表面観察方法の工夫

 表面の凹凸を分かりやすくするため、顕微鏡に次のような手を加えました。

①フードの取付け。

 顕微鏡に備え付けられているLEDライトは消灯できないタイプなのでフードを付けてLED光が試料に当たらないようにしました。また、フードの一部に切れ欠きを作って、一方向から光が入るようにしました。

②別のUSBライトによる光の照射。

 USBタイプのLEDライトを別途用意し、フードの切り欠きの部分より斜め横から光を当てました。

 このようにして得られた画像が図15になります。

 この写真を見るとピンホールの周辺が徐々に凹んでおり、中央部が陥没して黒く見えることが分かります。ピンホールのプロファイルだけではなく、塗膜表面の凹凸もある程度見ることができます。

 人によっては中央の黒い部分が盛り上がっているように見えるかもしれませんが、これは顕微鏡観察で時々起こる錯視によるものです。図17の繊維状の異物をよく見た上で、図14のピンポールを見るとこれがクレーター状の凹みであることが分かります。錯視については、機会があれば別の場で説明したいと思います。

 繊維状異物についても斜光照明では異物が立体的に見え、異物の形状が分かりやすくなっています。

 次にボールペンで用紙に描いた線の拡大画像を示しました。(図17、図18)

 ノーマル照明による観察では、用紙の凹凸が分かりませんが、斜光照明では用紙の凹凸を見ることができます。

4.まとめ

 コントラストの得られにくいのっぺりした観察対象であっても、工夫すれば安価なデジタル顕微鏡で表面状態の観察ができることをお分かりいただけたでしょうか。高倍率の観察には無理がありますが、低倍率での観察であれば表面状態の観察に使えると思います。