簡易デジタル顕微鏡の工夫による工業製品の観察2-偏光観察-
1.はじめに
今回は簡易デジタル顕微鏡を用いて、偏光観察を試みました。
2.複屈折と偏光顕微鏡のしくみ
太陽光線などの自然光は、あらゆる方向に振動していますが、 「偏光」は特定の方向に振動する光です。
「複屈折」とは、光がある種の結晶や配向した樹脂フィルムなど光学的異方性を持つ物質中に入るとき進行方向が変化し、二つの方向に屈折する現象のことを言います。偏光顕微鏡は、試料に偏光を照射し、試料の偏光特性を輝度または色の変化として観察する方法で、干渉色は複屈折の大きさと試料の厚みによって決まります。偏光顕微鏡を用いて鉱物の結晶や樹脂の結晶、フィルムの配向状態などを知ることができます。
3.偏光観察の工夫
今回使用したデジタル顕微鏡では、構造上落射照明で偏光観察を行うことが難しいので、透過照明による偏光観察を試みました。透過照明装置は自作することにしました。
偏光観察を行う手順としては、次の通りです。
① レンズ前面への偏光板の取付け
レンズと撮像素子の間に偏光板(アナライザー)を入れたいのですが、構造上難しいのでレンズと試料の間に偏光板を設置しました。幸いデジタル顕微鏡は作動距離が長いので、偏光板を取り付ける余裕があります。やり方としては、顕微鏡のレンズとLEDランプの間に自製フードを嵌め込み、フードの中に偏光板を設置しました。
②透過照明装置の作成
プラスチック製ボトル、LEDランプ、偏光板などを用意します。LED電球を樹脂製ボトルの下部に設置し、LED電球の上面に偏光板を設置し、上面に観察ステージを設ければ簡易の透過照明装置になります。(図2)
③観察
2枚の偏光板を偏光角が90度になる状態(クロスニコル)に設置し、試料を観察します。クロスニコルの状態は、視野が最も暗くなる位置に合わせれば良いのですが、今回用いたデジタル顕微鏡では、画面が適切な輝度になるよう自動調節されるので、クロスニコルの状態を求めるには、若干慣れが必要です。
4.観察例
①樹脂成形品として、爪楊枝ケースの蓋(ポリプロピレン)の樹脂注入口部分の偏光顕微鏡写真を図3に示しました。
➁樹脂成型品として、CDケース蓋(ポリスチレン)の樹脂注入口部分の偏光顕微鏡写真を図4に示しました。
③フッ素樹脂の一種であるFEP(Perfluoroethylene propylene copolymer)樹脂フィルムを延伸させた際の偏光顕微鏡写真を図5に示しました。
④プラスチックルーペの偏光顕微鏡写真を図6に示しました。余り技術的な意味はないかもしれませんが、不思議なパターンの干渉色が付いています。
5.まとめ
偏光観察は光を透過する試料の観察しかできませんが、フィルムの配向や歪の観察、成形品の樹脂の流れや成形歪の状態の観察など工業製品でも応用できる場面があります。